読書系女子のあれこれ

本の考察です。

平野啓一郎 『決壊』はパッチワークみたいな小説だった

※テーマと一貫性からネタバレ有り

 

 きっかけ

平野啓一郎の小説で今一番有名なのは、福山雅治主演で映画化が決定している『マチネの終わりに』だろう。

 

マチネの終わりに

マチネの終わりに

 

 私も平野啓一郎の小説で最初に読んだのはこっちで、当時既婚者と不倫していた同僚に「本当に読んで良かったと思えるような小説だから読んでみてほしい。最後が本当に良い」
などと言われ読んだのだけど、これがまあ本当に良かった。

映画のキャストのチョイスも良い感じ。

 

そして他の作品が気になり手に取ったのが『決壊』でした。

 

決壊〈上〉 (新潮文庫)

決壊〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

・・・・・いやマチネと書き方も作風も全然違う!

っていうのにまずビックリした。

幅がすごい。

 

マチネの方が後なのだけど、マチネは非常に知的水準も教養も高くお上品な小説、という印象を受けたのに対し、決壊は俗っぽさや普通の日常を突き詰めて描いたような、そんな印象。

 あらすじ

 

(本書より)

 

デビューから10年、平野啓一郎が連続殺人に挑む、新たな代表作誕生!

2002年10月全国で犯行声明付きのバラバラ遺体が発見された。容疑者として疑われたのは、被害者の兄でエリート公務員の沢野崇だったが……。〈悪魔〉とは誰か?〈離脱者〉とは何か? 止まらぬ殺人の連鎖。明かされる真相。そして東京を襲ったテロの嵐!“決して赦されない罪”を通じて現代人の孤独な生を見つめる感動の大作。

戦慄のバラバラ殺人──汚れた言葉とともに全国で発見される沢野良介の四肢に、生きる者たちはあらゆる感情を奪われ立ちすくむ。悲劇はネットとマスコミ経由で人々に拡散し、一転兄の崇を被疑者にする。追い詰められる崇。そして、同時多発テロの爆音が東京を覆うなか、「悪魔」がその姿を現した! 2000年代日本の罪と赦しを問う、平野文学の集大成。芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

 

※それと連続殺人を煽る謎の男、地方の厨二病をこじらせた中学生北沢友哉、沢野家の家庭崩壊に近づく様などが絡み合った話でした。

 

感想

 

パッチワークのような、というのは私の言葉ではなくて、そう形容したレビューを複数見た。

そして私もそう感じた。

この小説には多分主人公はいなくて、さらに小説を通して語られる筋となるようなテーマもない。

 
それと正直、他のどの部分とも相関しないエピソードや登場人物も多い。

(例:北沢友哉の母親のパート先に現れた男の集団
ー厳密に相関しない訳ではなく、社会や世界の一部として、あるいは結果として背景的に描かれている)


レビューなどを見る限り、そこが物足りなさや、読後の困惑を招いているようだ。

私も読み終えた直後は、「すごいものを読んだ…」という感想でぼーっとしたけれど、なんとなくすっきりしない感じが残っていた。

 
まあ「すっきりしない」というのが感想としての正解だと思う。
作者もすっきりさせようとはしていないのではないか?

 


色々な社会現象や、立場の違う人間の生や内面や、そういうのがパッチワーク的に切り貼りされて相関し合っているような、そんな小説。

そういう感想を持った。

  

テーマと一貫性

(ここからネタバレ有り)

 

 
私はこの小説を、一人の人生を追いかけたドキュメンタリーを全く関係ない赤の他人として無責任に観ているような感覚だと感じた。

 

いや、厳密には全ての小説はそうなんだけど、例えばテレビでいろんな人を追いかけた番組や特集をやっているのを、ソファーに寝っ転がりながら、チャンネルをコロコロ変えて観ているような。


だから最初から最後まで読むことにより一貫性が見えてくる部分というのは本当に少ないのだけど、強いて根本となる部分を挙げるなら、


 皆、ほんの少しの「遺伝と環境の差」が、似たような無数の他人と
違った結果を招いている

(下巻最期の室田と崇の会話より)

 

この部分ではないか。


佳枝(被害者良介の妻)が首をかしげているように、普段そんな強い主張をするはずのない良介が、「あの場(※拷問)でなぜか」自分は幸福であると強く主張し、結果として殺された。


佳枝は他にいた「本当に好きな人」と上手くいかなくなって良介と結婚したことに、お互い心にわだかまりを持っていた。
それが一因となって良介はブログを書き始め、それが原因で悪魔に目を付けられ選ばれてしまった。


同じ親を持ちながら、生まれながらにして反対の気質と能力、要旨を持った良介と崇。
世間から見たら平凡で幸福な家庭を築いていた良介、エリート街道を若くして進み、相手を固定せずに関係を結ぶ崇。
それぞれの人生が2002年にきた段階で平凡と非凡、被害者と容疑者に分かれた。

 

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北沢友哉は高いIQと社会に馴染みにくい気質を持って「あの家庭」に生まれた。


ほんの少しの違いで、「決壊」する日常。自分。


至極当たり前の話だけれど、遺伝と環境という、ほんの少しの分岐点の選択の差で、すべての結果が確定していく。

 

「決壊」の意味


「決壊」というタイトルの意味するところをずっと考えている。


普通の生活の「決壊」
当たり前の日常の「決壊」
社会の防波堤の「決壊」
それまでの自分という意識の「決壊」


そんなところだろうか。



パッチワーク的というより、「遺伝と環境のわずかな差」により起こる「決壊」の形を、悪魔的な殺人事件(=それ自体も社会のシステムの決壊である)を中心にそれぞれの人物に焦点を当てて描いた小説なのではないかと思う。

 

 


ほんの少しの差で、自分は「あっち側」になるかもしれない。
あるいは、なっていたかもしれない。

 


そういうことが一つ本書のテーマになっているように感じた。

 

決壊〈下〉 (新潮文庫)

決壊〈下〉 (新潮文庫)

 

 

 

しかし平野啓一郎の小説の登場人物、インテリキャラがやたら倒置法を多用してしゃべるよなあ。

 

ちなみに平野氏は京大卒。