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読書系フリーターの日常

ブラック企業を新卒半年で辞めた読書好きフリーターがいろいろ考えています。契約社員になりました。

真面目系クズだった私をほぐしてくれたのは、山田詠美だった

読書 雑記

 真面目系クズであった。

高校生の私はまごうことなき真面目系クズであった。

 

学歴至上主義の親に育てられたせいもあるけれど、私は高校を出るまで「いい大学に入るのが人生の全て」だと思いこんでいた。

その割に何一つ上手くできることもないし努力も嫌いなので、とりあえずがむしゃらに真面目に親・先生の言うことに従って媚びて、結果友達もいないコミュ力も皆無に成績も悪いで何一つできないクズ野郎であった。

昼休みはすることがないので図書室に直行である。

 

泥みたいな私の青春だったが、そこに影響を与え、自分を変えるきっかけになった本が山田詠美『ぼくは勉強ができない』だったと思う。

 

当時高校の社会をを担当していたなかなかファンキーな先生がいて、かなり本質とか面白さに重点を置いた授業をしている人だったのだけれど、その先生が授業中に勧めていたので読んでみた。

ぼくは勉強ができない (新潮文庫)

ぼくは勉強ができない (新潮文庫)

 

 一応センター試験の問題に出題された小説ではあるが、正直言って「これ教師が勧めるー?」みたいな内容である。

 

しかしね。ぼくは思うのだ。どんなに成績がよくて、りっぱなことを言えるような人物でも、その人が変な顔で女にもてなかったらずい分と虚しいような気がする。

これが主人公の言である。

主人公・秀美くんは成績が悪いし気に入らない教師にも逆らう。でもクラスの人気者でイケメンでモテて、しかもサッカー部だわ気の置けない男友達とワイワイやれるわその上バーで働いてる年上のおねえさん(超いい女)と付き合っている、リア充の権化である。

 当時の私とは全く真逆の人間だ。

 

かといって何も考えずヘラヘラしているわけではなく、むしろその逆で、本もよく読み常に自分の価値観でもってなぜ?と考えている。

だから、統率しようとルールを押し付け生徒を管理しようとする教師とぶつかったり、勉強する意味が見出せなかったりして学校という枠からはみ出してしまっている、そんな少年である。

 

裏表紙のあらすじには最初にこう書いてある。

ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ

秀美節はいろいろあるのだけど、当時の私は特にここにかなり衝撃を受けてというか考え込んでしまった。

というのも「勉強より素敵で大切なこと」になんて思いを巡らせたことがなかったので。

 

そんなところを皮切りに、それまでの真面目ガチガチだった私の「常識」にガッツンガッツンひびを入れてくれたのである。

一例を挙げると、

  • クラスみんながカワイイカワイイ言う女子の普通っぽさを装った世間に媚びる感じがキモい

(地味ブスだったが誰から見ても愛らしく女性らしく可愛らしい人間にならないといけないと思っていたし、そういう娘たちを批判するなんてあってはいけないと思っていた)

(2chなどにどっぷり浸かっていた折、グサッときた)

  • クラスメイトの主人公にしてみればなんでもないことが理由の自殺をきっかけに、個人個人の価値観の違いがいかに大きいかについて

(ほとんどのことを自分基準の価値観で判断していた)

  • 「健全」って何?「まっすぐ・無駄がない」ことは正しいのか?

(清く正しく世間の敷くルートを辿る人生以外の選択肢を考えたことがなかった)

  • 押し付けられる世間の声、人の言うことを自分の価値観で判断すること

(親と先生の言うことはすべて正しく、齟齬がある場合は自分が悪いと思っていた。まず自分の価値観なんてものがなかった)

 

こうやって最後にここまで老成した普通の高校生とは違うような書き方をしておいて、

  • そうやって周囲を観察して「自分は違う」と思っている主人公の断罪

からの主人公が勉強することの意味を考えて自分なりに答えを出していく、という流れなのだけど、この最後で一度壊して成長→再構築の構成がさすがだと思う。

どんな人間でも、それまでの自分とか価値観がぶち壊されて落ち込んで悩んで、そこを乗り越えて新しい自分を作るという道を思春期ぐらいには通るものだと思うから*1

 

結局主人公も少ない人生経験でもって考えたり判断したりしているわけで、その「納得できなさ」「疑問を持ってそのうえでどう生産的に行動するか」みたいなところと折り合いをつけるのが大人になるとか、社会で生きていく、だったりする。

こんな主人公も、結局まだコドモだったってこと。

 

 

 今思うと、思春期に抱えがちな悩みや陥りがちな精神状態に対して斜め方向からアプローチしてくれる、高校生には本当に読むべき本だった気がしている。

それまでの短い人生で生きてきた一面的な価値観や思いこみにメスを入れてくれると思うし、自分の人生を考える上ではかなり軌道修正するきっかけになったから。

 

一番大きかったのは、繰り返し「あなたが親や世間から言われているそれって、あなたは本当に正しいと思っていて、それを好きなの?やりたいの?」と問いかけられるような内容だったことだろうか。

それって一般的にあまり学校で言ってくれる人がいないことだし、私にはそれまで誰もそういう風にいってくれる人がいなかった。そしてそれが後に大学というモラトリアム期間でじわじわ効いてきた気がするので、ある意味私の青春の一冊だ。

 

おかげさまで今はずいぶん柔軟になったと思うし、適当に力も抜けるし友達もいるし、なんならちょっと羽目を外したりもできるのだし。

 

 

それにしても、 あの先生はよくこれを生徒に勧めたものだと思う。

 基本的に山田詠美は「世間の常識・ルール」とか「押し付けられる普通」とかが嫌いなようだし、本書も世間の敷いたレールに従って生きることへの反骨精神みたいなものが溢れているので、一般的にはあえて教師が生徒に読ませたいものではないんじゃないかと思うから。

 

 

ちなみに、卒業後、私はその先生が教えていた科目を大学で専攻することにした。

 

ぼくは勉強ができない (文春文庫)

ぼくは勉強ができない (文春文庫)

 

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*1:アイデンティティの拡散と新たな自我同一性の獲得ってやつでしょうか